かれこれこの状態のままで何時間が経ったのだろうか。
1時間?2時間?いや、もしかするとまだ30分も経ってないかもしれない。
無駄な時間や意味のない時間はとても長く感じるものだ。
俺は無駄な時間が大嫌いだ。
例えば、知り合いの知り合いの人と2人きりになってしまったときの変な時間。
全宇宙における全人類の知り合いの知り合い同士の間に流れるあの変な時間をすべて集めたら13月が作れたんじゃないだろうか。
無駄な時間はなるべく過ごしたくない。
…過ごしたくないのに。
あんな財布拾わなければよかった。
財布を拾ってネコババするか交番に届けるか。
そんなことを迷っていると、天使が現れて「交番に届けなさい。」と言い、
悪魔が現れて「ネコババしてしまえ。」と言う。
そんな話がある。
中身のお札や免許証を確認していると、誰かに見られているような気がした。
ふと横を見ると知らない間にいつのまにか天使と悪魔が現れていた。
その時点で「もうちょっと音とか出して分かりやすく出てこいよ。」とは思ったが、
そのあともボーっと突っ立ってるだけで何も言ってこない。
いわゆる「無の顔」で口も半開き。天使に至っては鼻クソほじくってる始末。
…。
え?言わないの?言うの?
…。
え??いや…え??
何しに来たの?ボーっと突っ立てるだけで。
…。
いやマジでなんなのこの変な時間…。
早く交番に届けろなり、ネコババしてしまえなり言えよ。
何突っ立ってんだよ。
え?いやマジで何?
…。
なんなのこの変な時間。
どうしたいの?どうすればいいの?
何?帰っていいの?
そんなことを思ってると視界の端に誰かいる。
あ!
よかった~!この財布の持ち主だ。免許証と同じ顔。
ようやくこの無駄な時間が終わる。
…。
え?うそ?
…。
え??アンタも??
アンタも何も言わずにただボーっと突っ立ってるだけなの?
…。
いや…え?
あなたのですよね?どこ見てんの?
…。
いや…。あの…。えっ?なんなのこの空気。
あなたのですよね?何を聞いてもボーっと突っ立ってるだけで、
自分も何も言えずに財布を持ったまま突っ立っているだけ。
…。
このままボーっと突っ立っていたらいつのまにか春が来て、
夏が来て。
秋が来て。
厳しい冬を越えて、また春が来て。
そうして季節は巡り、僕らは大人になってゆくのだろうか…。
人は気付かないうちに、だんだん大人になってゆく。
徐々に徐々に。ゆっくりと…。
…。
ハッ!!いつのまにか俺もボーっと突っ立っていた。
なんだこの状況。
大の大人2人と、天使と悪魔がボーっと突っ立ってるこの状況。
かれこれこの状態のままで何時間が経ったのだろうか。
1時間?2時間?いや、もしかするとまだ30分も経ってないかもしれない。
無駄な時間や意味のない時間はとても長く感じるものだ。
だけど…。
だけどもしかしたら無駄な時間なんてこの世にないのかもしれない。
こんな時間もいつか素晴らしいときだったと。
いつかそんな風に思えるのかもしれない。
ん?後ろに誰か…。
お巡りさん!!
うん。そうだな。ネコババなんて良くない。
この財布をお巡りさんに渡して終わりだ。
ようやくこの無駄で、そして意味のない時間から解放される…。
…。
え?
…。
え??
えっ!?お前も突っ立ってるだけなの!?
なんなのもう!!
もういいよ帰る!!
2千円しか入ってねーのに悩む必要なんかなかったよ!!
いらねーよバカ!2千円くらいだったら頑張って仕事するよ!
あーあ!マジで無駄な時間だった!!