2012年8月2日木曜日

名乗るほどの者ではございません


夜の街に女の悲鳴が響いた。

数人の暴漢が一人の女に襲いかかろうとしていた。

「やれやれ。面倒はなるべく避けたいが…。女を泣かせるわけにはいかないな。」

私はそう呟いた後、思い切り叫んだ。

「やめるんだ!」

数人の暴漢が私の方に振り返る。

「なんだテメェは!」

私は答える。

「なぁに。こっちの方から私を呼ぶ声が聞こえたもんでね。」

そう言うと、一人の男が私の方に詰め寄って来た。

「引っこんでろ!」

そう言うと、男はボディに蹴りを入れ、私の胸倉を掴んだ。

その刹那、私はその腕を片手で捻り上げ、その背中を突き飛ばした。

そして、私はすぐさまハンドルを切り、車を路肩に停めると、即座にギアをパーキングに入れ、サイドブレーキを引くと、普通の2倍ほどの速さで、窓を閉め、ハザードランプを点けたあと、瞬間的に、後ろから車が来ていないかサイドミラーを見て、車から降りた。

そして、降りるや否や、目にも見えぬ速さで、私は先ほど蹴られた車のボディのへこみを確認した。

「良かった。キズは浅い。」

しかし、その機を狙って、先ほど突き飛ばした男が私を後ろから羽交い絞めにし、身動きの取れない私に暴漢たちが全員で襲いかかってくる。

すぐさま、後ろの男の顔めがけて、後頭部で頭突きをすることで、羽交い絞めから抜け出すと、即座に車に再び乗り込み、内側からカギを掛け、エンジンを掛け、音楽を掛けた。

車の中に鳴り響くメロディ。

私はそのリズムに合わせるように、車を発進させ、ある程度進んだところで車の方向を変える。

サビに向かって盛り上がっていくメロディとシンクロするようにスピードは急上昇し、そして、曲はサビを迎える。

スピーカーから流れるメロディを私も一緒に口ずさむ。

「ボーイミーツガール♪しあ~わせのよ~かん♪きっと誰かを感じてる~♪」

「フォーリンラブ♪ロマ~ンスの神様♪この人でしょうかぁ~♪」

サビを歌い終えると同時に、私は迷わず暴漢たちをまとめて轢いた。

総まとめ轢きである。

私は轢き終えると、車を止め、再び車を路肩に停めた。

「大丈夫ですか?お嬢さん。」

私は車から顔を出して、声を掛ける。

このあと、おそらく、この女性は私に感謝し、そして、こう言うのだろう。

「お名前をお教えいただけませんか?」

私の台詞はすでに決まっている。

「名乗るほどの者ではございません。」

そして、私は彼女に背を向け去っていく。

彼女は、それを見送りながらこう呟く。

「ロマンスの神様この人でしょうか?」と。

私は車の窓をゆっくりと開け、実際に声を掛けた。

「大丈夫ですか?お嬢さん。」

彼女は、まだ恐怖が残っているのか、固まったままである。

「お嬢さん?どこかお怪我されたんですか?お嬢さん?」

私がそう声を掛けたところで、ようやく彼女は我に返り、私の方を向いて口を開いた。

「ひっ…ひひ…人殺し~!!」

そう叫びながら、彼女は走り去って行った。

私は想定外のその言葉に驚き、逃げるように車を走らせた。

再び音楽のスイッチを入れ、音量を上げる。

大音量のロマンスの神様がそこらじゅうに響き渡る。

ドップラー効果で聴こえるそれは、一体どのように聴こえるのだろうか。

そんなことを思いながら、私は車を走らせる。

ドップラー効果により、近付くたびに高く聞こえる後ろのサイレンの音を聴きながら―。

取り調べ室で名前を聞かれた私はこう答えた。

「名乗るほどの者ではございません。」と。


2012年6月26日火曜日

続・裏切らない人




信頼する人物に裏切られた主人公。

しかし、この裏切り者はなんと「話のオチでは裏切らない男」だった…!

拳銃を突きつけられ身動きも取れず、裏切り者の、オチで裏切られない話を永遠と聞かされる主人公。

果たして運命やいかに…!



フフフフフフ…。

どうだ。

裏切り者にオチで裏切られない話を永遠と聞かされる気持ちは。

そろそろ最後にしよう。

最後はこんな話をしてやろう。


…あるところに、赤ずきんちゃんと呼ばれてる女の子がいたのね。

で、その女の子がお母さんに、おばあちゃんのお家に届け物を頼まれたの。

おばあちゃんのお家に行くのには森を通って行かなきゃいけなくて、赤ずきんちゃんもその森を歩いてたんだけど、その途中で、オオカミに会っちゃって。

でも、赤ずきんちゃんはオオカミの恐さを知らないから、オオカミに言われたとおりに、花を摘むために道草をしちゃったのね。

で、しばらく花を摘んだあとに、おばあちゃんの家に向かって、ようやくおばあちゃんの家に着いたんだけど、なんか急に気になって、赤ずきんちゃんはこんなことをおばあちゃんに尋ねたの。

「おばあちゃんの耳はどうしてそんなに普通なの?」って。

そしたら、あばあちゃんはこう答えた。

「それはね。普通に音を聞くためだよ。」

こんな風におばあちゃんにどんどん尋ねていく。

「おばあちゃんの目はどうしてそんなに普通なの?」

「それはね。普通にモノを見るためだよ。」

「おばあちゃんの鼻はどうしてそんなに普通なの?」

「それはね。普通に匂いを嗅ぐためだよ。」

で、最後にこうおばあちゃんに尋ねたの。

「じゃあ、おばあちゃんの口はどうしてそんなに普通なの?」

そしたら、おばあちゃんがゆっくりと赤ずきんちゃんの方を向いてこう言ったの。

「それはね…。普通にモノを食べるためさー!!」

…ってね。

女の子が普通のババアに怒鳴られたっていう話。



…ふっふっふっふっふっふ。

ハーッハッハッハッハッハ!!!

どうだ!

今回はかなり早めに裏切られないことに気が付いただろう!

さて、そろそろ終わりにしようか。

死ねぇ!


パァン!!


…。


なっなんだと…?

お前の仲間か…俺を撃ったのは。

ふっ…。

裏切り者は結局最後に落ちる…か。

裏切りのない、俺らしい最後―オチ―だ…ぜ…。




こうしてこの裏切り者の「話」は幕を閉じた。

裏切らない男の最後は、まさしく彼らしい「オチ」だった。

結局、彼は何がしたかったのか。

それはもう、誰にも分からない―。


裏切らない人




ハーハッハッハ!!

残念だったなぁ!!

「なぜ?」だと?それは「なぜ裏切ったのか」ということか? 

ふん。自分の胸に聞いてみるんだな!

いいか。お前にこんな話をしてやろう。


 …実は、俺の従兄の兄ちゃんって霊感がある人なのね。 

だから、なんていうのかな。見えちゃう人なんだよね。 

で、その従兄の兄ちゃんが、会社から帰るときに体験した話なんだけど。 

その帰り道の途中に、電灯がすごい少なくて、人通りも少ない暗い道があって、いっつもそこ通るときに、なんか嫌な感じがしてたんだって。 

で、ある日、そこを通ったら、なんかいつも暗いんだけど、いつも以上に暗い感じがして、

「あっ出るな。」って思ったんだって。 

そしたら、案の定、向こうの電灯の下になんか「人っぽい形をした何か」が立ってるのが見えたんだって。

人の形はしてるんだけど、何かが違うっていうのはすぐに感じて。 

どんどん近づいていくと、徐々にその「人の形をした何か」の輪郭がはっきりしていくわけ。 

近づいていけばいくほど、なんか体が重くなるような気がしてたんだけど、なぜか足が勝手にそっちに向かっていくんだって。 

で、もう見たくないから下を向いて歩いてたんだけど、もうその「人の形をした何か」のすぐそばまで来ちゃったの。

で、パッと顔を上げて、その「人の形をした何か」の方を見たら…。 

なんと、それが…結局、人だったの!

人の形をした普通の人だったっていう話。




…ふっふっふっふっふ。

ハーッハッハッハッハ!

どうだ! 裏切り者に話のオチで裏切られなかった気分は!

ハッハッハッハ!

俺は、話のオチでは絶対に裏切らない男だ!

ハーッハッハッハ!ハーッハッハッハッハ!!


・・・・・続く           



2012年6月7日木曜日

犯人はやくみつる




私はここで、ある事件の犯人を告発したいと思う。

東京都世田谷区の桜新町商店街。

この場所で、人のモラルを問うような事件が起こった。

みなさんもニュースなどで耳にしたであろう。

東急田園都市線の桜新町駅前に設置されている人気漫画「サザエさん」一家の銅像のうち、波平さんの頭に1本生えていた約10センチのワイヤ製の毛が、2度にわたって抜き取られていたという事件である。

毛を抜き取った犯人については、まだ何も分かっておらず、証拠もないため、事件は未解決のままとなっている。

しかし、私はこの事件の後に行われた「植毛式」で、ある人物に疑惑の目を向けることになる。


波平さん銅像に“植毛” 世知辛いけど…カメラで監視   http://www.sponichi.co.jp/society/news/2012/06/03/kiji/K20120603003381830.html


波平の頭に毛を差しこんだのは、漫画家、コメンテーターとして知られるやくみつる氏であった。

彼が薄ら笑いを浮かべながら、波平像の頭に毛をねじ込んでいるのを見たときに、私はこんなことを思った。



「彼ならやりかねない。」



彼は漫画家、コメンテーターとして以外に、ある裏の顔を持っている。

彼のことを本当に知っている人なら、彼のことをこう呼ぶであろう。

「珍品コレクター」と。

彼のコレクターとしての主義は、「先人のいない分野を開拓すること。」

そして、彼がコレクションしているものは様々ではあるが、もっとも知られているのは、芸能人が使用した物のコレクションである。

芸能人のタバコの吸い殻。女性芸能人が使用したストロー。

これらを、誰にもバレないように盗みとる。

最近では、著名人が自ら吸ったタバコの吸い殻を「あげるよ」と渡されるという。

そのときに、彼はこう思うのだという。

「自ら渡されては、楽しさ半減。緊張感があるからこそ価値がある。」と。

ここまで読んだ皆さんも、私と同じことをお思いになったはずである。

そう。

彼ならやっていたとしても不思議ではないのだ。

いや、もう彼がやったとしか考えられない。

彼は、自らが毛を抜き取った波平像に、再び舞い戻り、さもこの事件を嘆いているかの如く振る舞い、新たな毛を植毛した。

それは、まるで放火犯が現場に舞い戻り、燃え盛る炎を眺め、高揚感を得ているかのようで、私は彼の中の変態性のようなものを感じずにはいられない。


私は、彼の変態的とも言えるその収集癖を動機として、彼を犯人だと推測した。

しかし、彼にはまだ、もうひとつこの事件を起こす動機がある。

キーワードは「編み込み式増毛」である。

もう、私が言わなくとも皆さんにはご理解頂けたであろう。

彼は、この件に関するインタビューの最後をこう締めくくっている。


朝起きると寝癖がつきます。これは髪の毛が少なかった時代には味わえなかった喜び。例えるならば、勃起不全の男性が「おお、勃った!」と感動するのと同じことで、つまり「キミもあの喜びを取り戻してみないか?」と声を大にして言いたいですね。
http://www.cyzowoman.com/2012/02/post_5218.html 


最後の最後に「勃起」というワードを放り込んでくる彼の精神性は、もはやサイコパスとしか言いようがなく、私はこのインタビュー記事を見て、彼が犯人であるという確信に至った。


当初、私はこの事件を耳にしたとき、ただの悪戯程度の考える愉快犯の起こした事件だと考えていた。

実際は、猟奇的でサイコパスな変態収集家が起こした事件であった。

証拠がない以上、彼を捕まえることはできない。

しかし、もう私だけでなく、ここまで読んだ皆さんも同じように思っていることでしょう。



「彼ならやりかねない。」




2012年5月26日土曜日

夢を諦めないで。



バカ野郎!!

「もう諦める」だって!?

お前の「夢」って、その程度のものだったのかよ!

諦めんなよ!一回失敗したくらいで、何言ってんだよ!

何だって?

才能?

才能なんて関係ねえよ!

才能がないなら、努力すればいいだけの話じゃねえか!

諦めんなよ!

え?努力はした?

じゃあ、もっと努力しろよ!

努力する才能なら、お前にもあるはずじゃねえか!

俺の知ってるお前なら、もっと頑張れるはずだよ!

諦めんな!

え?父親が病気で入院した?

親を理由にするんじゃねえ!

実家の家業を継いでほしいって父親が言ったのか?いや、言ってないはずだよ!

お前の夢を、一番応援してたのはお前の父親だったじゃねえか!

諦めんなよ!

え?父親は反対してたし、家業も継いでほしいって言われたの?

…。

いや、それでも諦めんなよ!

諦めたら、そこで試合終了ですよ!

「だから諦めたって言ってんじゃん」じゃねえよ!

とにかく、諦めんなよ!

諦めるのはダメだよ!

ケガ?

乗り越えろよ!乗り越えて、以前よりも強いお前になってろよ!

諦めんなよ!

手術しても治らない?

うるせー!!諦めんな!!

彼女が妊娠した?

知るか!!諦めんな!!

借金で首が回らない?

バカかよ!!諦めんな!!

才能がなくて、努力が実らなくて、手術しても治らないケガを負って、子供ができた上に、借金があって、父親が倒れて家業を継がなきゃならなくても!

それでも…それでも、諦めんなよ!!!

…え?なに?

さらに?うん。

うん。

うん。

え?まだ、あんの?

うん。

包茎?

包茎は関係ねえだろうがバカ。

俺が?

じゃあ、もっと関係ねえだろうが!!ヤメロよ!

え?

あっまだあんの!?

もういいよ!

…。

諦めんなよ!

あのー…。

え~と、なんだろう?諦めんなよ!

あ~。

え~。

…。

諦めんなよ!!!!




2012年4月23日月曜日

バールと私

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バール。釘抜きとして使われる鉄製のL字型の棒。

まだ言葉を覚えていない私に、親から生まれて初めて与えられたオモチャは、そのバールでした。

バールは釘抜き以外に、梃子の原理を利用して、マンホールなどの鉄の蓋を開けるときに使われます。

しかしそれだけです。

ひとつ持っていたとしても、ほとんど使う機会はありません。

幼い頃から、生まれたときから、私が人から与えられる物はいつもなぜかバールでした。

誕生日には、プレゼント用のリボンが巻かれたバールと、ロウソク代わりにケーキに突き立てられたバール。

当然、毎年ケーキに突き立てられたバールの数は、どんどん増えていきました。

5歳の誕生日には、すでにケーキはその重みを支えきれずにグチャグチャになっていたことを覚えています。

クリスマスも当然、靴下に突っ込まれていたバールがプレゼント。

靴下の形は、まるでそれを入れるために作られたかのようでした。

しかし、幼少の頃の私はそれを当然のこととして認識していました。

思春期になり、私に自我が芽生え始め、世間というものを知り始めた頃、私は初めてこれを普通とは違うことであるのではないかと思い始めました。

初めて友達のお誕生日会に行き、綺麗な色鉛筆や、手作りのクッキーをプレゼントされ喜んでいる友達を目の当たりにして、その思いは確信へと変わりました。

当然、ケーキには火の灯った普通のロウソクが刺されていました。

私はプレゼントとして用意していたバールを後ろに隠し、急遽、折り紙で作った花を友達に渡し、動揺を隠しながら、早々と友達の家を後にしました。

私は、その夜、両親にそのことを話しました。

「どうして僕の誕生日プレゼントは、バールなの?」

両親は、誕生日だから当然だと、お前何言ってんの的な顔をしていました。

しかし、私は、あるときから気付いていました。

母が父に、父が母に渡すプレゼントはネックレスやネクタイで、バールではなかったことを。

そんな両親に疑問を感じ始めた頃、私は初めて家族以外の人からプレゼントをもらいました。

バレンタインデーでした。

しかし、クラスのマドンナで、みんなが憧れるその娘からもらったものは、チョコレートなんかではなく、甘くもない、食べれもしないL字型の金属の棒、そう、バールでした。

その娘にも私は訪ねました。

「どうしてバールなの?」

バレンタインデーだから当然だと、やはりお前何言ってんの的な顔をしていました。

誰に聞いても答えはいつも同じでした。

ティッシュ配りをしていたはずなのに、私にはバールを渡してきたお姉さん。

初めて1人暮らしをしていたときに、「作りすぎちゃったから。」と、バールのお裾分けをしてきたお隣さん。

みんなでスキー旅行に行ったときの写真を配っていたのに、私にだけバールの写真を渡してきたマネージャー。

いつしかバールを受け取ることも事務的なものになり、バールを受け取っては燃えないゴミの日にまとめて捨ててを繰り返すそんな日々が日常となっていました。

しかし、何年かに一度、やはりなぜバールを渡されるのか再び疑問に思う日が訪れることがあります。

それが今です。

どうして?なんで?

なぜ私は、毎日何本も渡されるバールのために、子供用のゴルフバッグを持ち歩かなければならないのか。

なぜ私は、毎月「1」の付く日にバールをプレゼントされなければならないのか。

大人になって、お正月のお年玉のバールがなくなった代わりに、毎月「1」の付く日、特に11月11日には大量のバールを渡されるようになりました。

大量の燃えないゴミは、普通にゴミ置き場には出すことはできません。

会社で、暖かいコーヒーを頼むと、暖められたバールを渡されます。

熱いコーヒーに口を付けて「熱すぎるよ!」と上司が女子社員に怒鳴っている横で、私はそんなコーヒーの熱さとは比にならない、熱せられた鉄の熱さで、手を火傷することがあります。

机の上に敷かれた透明なマットは、バールのL字に溶けています。

なぜ私は、こんな目に合わなければならないのか。

こんな疑問を抱いたとしても、答えはいつも水の中。

1週間後には、またこんな疑問も忘れ、事務的にバールを受け取っては捨てる日々が訪れるのでしょう。

しかし、もう慣れました。いや、慣れたというよりも諦めたと言った方が正確なのかもしれません。

私が嫌なのは、私が死んだ後のことなのです。

私の生前を知る友人達が、私の愛する妻と娘が、まだ見ぬ娘の夫が、孫が、おそらく何本ものバールが敷かれた上に寝かせられた棺の中の私の上に、一本ずつ、一本ずつ、バールを手向けていくのでしょう。

燃やされて残るのは、私の骨と、溶けて鉄の塊としてひとつになったバール。

もしかすると、私もその一部と化しているのかもしれません。

そんなの死んでも死にきれません。

それだけは絶対に避けたいと、絶対に避けなければならないと思っている所存でございます。




そんな思いを込めました。

私の半年ぶりのリリースとなります、新曲『バールと私。』

え~来週の水曜日にですね、発売となりま~す。

初回盤は、オリジナルのですね、私のサイン付きバールが付いてきますので、みなさんぜひお買い求めくださいませ!!
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2012年4月21日土曜日

トイレから出てくる人を励ます人。

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おい。どうした。

そんな落ち込んだ顔して。

いや、俺が誰かなんてどうだっていいんだよ。

落ち込んでる人を見てられないんだよ俺は。

いや、今偶然お前がトイレから出てきたところ見たら、すごい落ち込んでる感じだったから。

どうした?なんかあったか?

あっ。もしかして、そういうこと?

あのな。いいか?

普通に生きてりゃウンコぐらいするさ!どうってことねぇよ!

ウンコしたくらいで落ち込んでんじゃねぇよ。

元気出せって!な?

えっ?違う?何が?

いや、だってトイレから出てきたら落ち込んでるから。

いや、いいか?ウンコをすることは、恥ずかしいことなんかじゃない。

別にそんな隠さなくても。

いや、分かってるって。

…したんだろ?…ウンコ。

いやもうお前は何も言わなくていい。

俺もさ。ウンコ…するんだ。

いや、まぁ当然っちゃ当然だけどさ。

俺もさ。今のお前みたいにウンコするたびに落ち込んでさ。

ウンコするたびに罪悪感に押しつぶされそうになってさ。

でもさ。出るものは出るんだよ。出るものは出るわけだからさ。

だから、いちいち落ち込んでたってしょうがないじゃん。な?

だからお前もウンコしたぐらいで落ち込んでんなよ。元気出せって。な?

なに?ウンコなんてしてない?

バカヤロウ!!それだけは言っちゃいけねえ。

例えそれがどんなに汚いものであっても、生みの親であるお前がその存在を否定してんじゃねえ!

お前が愛してやらなきゃ誰があいつを愛してやれんだよ…。



…いやいや、だから。いつまで強がってんだよ。

お前の気持ち分かるよ!お前の気持ちすごい分かるんだよ。

トイレで踏ん張ってるとき、俺いつも思うんだ。

「こうしてトイレでふんばってる今も、世界のどこかの誰かと排水管でつながっていて、同じように同じようなモノを同じ所から出してるんだな。」って。

そんなことを思ってるとさ。すごく…なんて言うんだろう?

国境なんてないんだなって。世界ってひとつなんだなって。

そして自分がすごくちっぽけな存在に感じてしまうんだよな。お前もそうだろ?

だけどさ。人間なんてみんなちっぽけな存在なんだよ。

そう。

さっきお前がお尻から出したものと同じようにさ。

だからそんな顔してんじゃねえよ。

お前は一人じゃない。俺がいる。みんながいる。ファイトだ!



…いや、だからー!

もう、ウンコしたかどうかなんてもうそんなことどうだっていいんだよ!

ウンコをすることが悪か、正義か…。

確かに世間から見れば、ウンコをすることは悪なのかもしれない。

ウンコをすれば罵詈雑言を浴びせられ、そこから差別が生まれることもあった。

過去にはアパルトヘイトや、カースト制度や、ウンコが悲しい出来事を引き起こしたのは紛れもない事実だ。

実際、俺もウンコをすることを完全に赦すことはできない。

悲しいけどな…。

でも、でもな。ウンコをすることが悪か、正義か。それはお前が自分自身で決めることだ。

お前はただ、唯々ひたすらに出すことだけを考えてればいいんだよ。

出して、出して出して。出し続けて出し続けて、

その結果、お前が悪だと思うのならそうだし、正義だと思うのなら、そうだ。

世間の風潮に流されるな。お前のその目と、その穴は何のためについている。

さぁ!もう一回出してこい!

よし!行って来い!




…っていう感じの仕事をしてるんですけど、部屋借りられますかね?無理です?

わっかりました~。


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2012年3月30日金曜日

悩みを勝手に解決しようとするし結果的に解決できてない奴。

今日は、色んなところ、色んな情報源から勝手に集めた色んな人たちのお悩みを勝手に解決して、
知らない人に、いつのまにか勝手に自分の悩みを解決されているという恐怖を植えつけてやりたいと思います。


Q. 進路ことで悩んでいます。

僕は今、進路で悩んでいます。それは、就職するか大学院に進むかという2択です。

僕の家は父子家庭で、長男として早く就職して父を楽にさせてあげたいという気持ちもありますが、今の研究をさらに深く研究したいという欲求も出てきてしまいました。

どうか何卒アドバイスを頂けたらと思います。


A. ご相談ありがとうございます。

これからの人生を決めるかもしれない2択なので、参考程度に聞いて頂けたらと思います。
あなたのお悩みを聞いて思ったことを、正直に言います。

まず、「2択」という言葉を聞いて私の頭に最初によぎったのは、○が描かれたパネルと×が描かれたパネルがあって、正解だと思った方のパネルに走って行って、そのパネルを突き破るのですが、不正解の方のパネルの先には粉が撒かれていて、もし不正解の方のパネルに突っ込んだ場合、粉まみれになってしまうという2択クイズのことでした。

そこで、私からあなたへの提案なのですが、不正解のパネルをガラスで作って、不正解のパネルに突っ込んだ場合、アクション映画のワンシーンみたいになってしまうというのはどうでしょうか?

そうなったらいいのにと私は思います。ご参考になったでしょうか?



Q. 怖い話が苦手です。

私はとても怖がりなのですが、どうにか克服したいと思っています。
何かいい方法はないでしょうか?


A. 私も苦手です。

特に、怖い話のオチでよくある「お前だーっ!」って指差されるヤツが苦手です。
いつやられてもビックリしちゃって。

だってそんなこと言われても俺じゃないんだもん。「お前だ」って言われてもさ。
……えっ?俺なの?えっ!?俺じゃ…ないよね?
え!?違うよね!?俺じゃないよね!?

ちょっと逆に質問します。私じゃないですよね?お返事待ってます。



Q. 結婚したい。

私は来月で30歳になります。そろそろ結婚をしたいと思っています。

しかし、今の彼氏はまだ結婚する気はないようです。

このままこの彼氏と付き合って、結婚してくれるまで待つべきか、
それとも別の人を探すべきか悩んでいます。

どうしたらよいでしょうか?


A. 正直に言います。

正直に言いますと、さっきの質問のことで頭がいっぱいで、考える気にもなりません。

あれ本当に私じゃないですよね?どう思います?



Q. 好きすぎてどうにかなりそうです。

今僕には付き合って2ヵ月になる彼女がいるのですが、もう彼女のことが好きすぎてどうにかなってしまいそうです。
殺したいほど好きというのは言いすぎですが、ホントにどうにかなりそうで、怖いときがあります。

僕はこのままでも大丈夫でしょうか?


A. その気持ちすごく分かります。

小学生のときかな。好きな女の子がいたんです。
その子は本当に可愛くてね。もう本当に好きになっちゃって。

もうTシャツの柄にしたいくらい可愛くて。
あのなんか女の人がプリントされてるTシャツみたいな感じでTシャツの柄にしたいと思ったんですよね。

だからど根性ガエルのピョン吉みたいにTシャツの柄にしようと思って、6年間暇さえあればその子にダイビングクロスボディアタックとか、ボディプレスとかしまくったんですけどね…。

結局いつも3カウントでフォール勝ちするだけでしたね~…。

だからすごくその気持ち分かります。
好きな子がいつの間にか倒したい相手になってたっていうかね。

分かります。すごく分かります。

こんだけ同じ気持ちの人がいるなんて、もしかして俺なんじゃないかって思うくらい…。

…えっ?マジで…?ウソでしょ?

もしかして…もうひとりの俺…?

あなた、もしかしてもうひとりの私ですか?お返事待ってます。




まぁ今日はこんなところかな。

知らない人に、いつのまにか勝手に自分の悩みを解決されている恐怖を思い知れ!

2012年3月6日火曜日

バールのオンナ

「あなた、忘れ物よ。」

玄関を出ようとしたとき、妻の声が響く。

私は妻から弁当と、そしてバールを受け取り、弁当を鞄に、バールを片手に駅へと急いだ。

周りの人にバールが当たらないように気を付けながら、満員電車に乗り込んで、いつも通り会社近くの駅に降りると、いつの間にか雨が降っている。

傘を持ってきておけば良かった。

そんなことを思いながら、私は仕方なく、バールを傘のように持ち、さもそれで雨を凌げているかのような顔をして会社へと歩き出した。

その途中、高校生の男女が普通の傘を差しながら、二人で仲良く私の前を歩いていた。

私はそれを見て、ふと自分の高校生のときを思い出していた。


部活が終わり水道で顔を洗っていると、タオルを持っておらず顔がビショビショのままの私の元へ、一つ下の後輩である女子マネージャーがやって来た。

「よかったら、これ使ってください。」

そう言って、彼女は私にタオルを渡すように、バールを手渡した。

私は自分の服で顔を拭いて、躊躇いながらもそのバールを受け取った。

バールの直角の部分を見てみると、何やらメッセージが書いてある。

「このあと、体育館裏に来てください。」

そのメッセージを読んだ私は、しばらくして、バールを片手に、体育館裏へと足を延ばしたのだ。

そこには恥ずかしそうに立つ、先ほどの女子マネージャーがおり、後ろに手紙のようなものと、何やら金属製でL字型の棒のようなものを持っていた。

「ずっと好きでした!これ…受け取ってください!」

そう言って、私がそのラブレターであろう手紙と、バールであろう金属の棒を受け取ると、彼女は恥ずかしさに耐え切れなかったのか、走り去ってしまった。

私はその手紙を鞄の中にしまい込み、それぞれの手に持った二本のバールが自然とダウジングのようになりながらも、家路についた。

そういえば、そのときも今日のような雨が降ってきて、私は片方のバールを傘のよう持ち、さも濡れていないかのような顔をして、ビショビショになっていたような気がする。

思い出に浸っているうちに、いつのまにか会社の前まで来ていた。


夕方になり、私は早めに会社を出た。

仕事中に女子社員に何度かコーヒーを頼んだが、コーヒーではなくバールを渡されたため、帰りのバールの数は朝に妻から渡された分を入れて、三本に増えていた。

二本をそれぞれ両手に持ち、残りの一本をネギのように鞄に詰めて、私は家に帰る前に、馴染みのバーに寄ることにした。

「いつもの。」

私が二本のバールを傘立てに置き、席に着いてそう言うと、マスターは何も言わずにコクリと頷いて、私の前にスッとバールを差し出した。

そのあと、「いつもの。」で通じると思っていた私がいつも頼んでいるカクテルをちゃんと頼んで、それを一杯だけ飲むと、私は計四本になったバールを持って店を出た。


その夜、私はある夢を見た。

木こりである私が斧で木を切っていると、勢い余って斧を湖に落としてしまったのだ。

すると、その湖から女神が現れ、私にこう言う。

「あなたが落としたのはこの金のバールですか?それともこの銀のバールですか?」

私は必死にそれを否定する。

しかし意に反して、女神は「正直者のあなたには、あなたが落としたこの普通のバールと、金銀のバールの三本を差し上げましょう。」と言って、私にその三本のバールを押し付けると、湖の中へと消えて行き、夢の中で私はこう叫ぶのだった。



「もう…もうマジで…。マジでバールっていらねぇな!!」

 

 

2012年2月18日土曜日

ストーカーらしさ。

最近、妙な人に付きまとわれてる。

一日中家の前に立ってる男。

ストーカー?なのかな?

いや、多分違う。

そいつが男だからとかいう理由じゃなくて、なんて言うか、なんか違う。

なんなんだよアイツ。

なにがしたいんだよアイツ。

ストーカーなのか何なのかハッキリしろよ。

「ダンカン」とだけ書かれた看板を持って、一日中ずっと家の前で突っ立って、何してんだよ。

しかも、下地が赤なのに、オレンジ色でダンカンって書いてあるからスゲー見にくいんだよその看板。

最初色弱のテストかなんかかと思ったもん。

「………。あっ!見えた!ダンカンか!良かったー俺色覚異常じゃなかったー。パイロットなれんじゃん。良かったー。」って。

「ダンカン」って書かれたあの看板さえ持ってなかったらストーカーだって確定できるのに!

あの看板さえなかったら、こんなにモヤモヤしないのに!

あの看板マジでうっとーしいよ~。

この前なんて、本人いなくてダンカンの看板だけウチの前に置かれてて。

なんか用事があったのかなんなのか分かんないけど。

たぶん朝早くに来て置いたんだと思う。

前の日の夜にはなかったから。

会社行く前に病院行くみたいな感じでウチに来やがって。

マジでなんなんだよ。

ていうか最近は本人来なくて看板だけ置かれてることの方が多いからね。

あのダンカンとだけ書かれた看板の方がよっぽど俺のストーカーだよ。

ていうか、はじまりはなんだったんだよ。

なんで俺だったんだよ。

ストーカーするんならちゃんとストーカーしてくれよ。

警察には相談できないし。

警察になんて説明したらいいかわかんないもん。

ていうかアレをストーカーとしたら、逆に本当のストーカーの人に申し訳ないよ。

いや本当に。アイツ見たら、本当のストーカーを尊敬しないこともないよ。

本当のストーカーの人はちゃんとしてる。

ちゃんとストーカーしてる人は偉いよ。 立派。

最近は電話もしてくるし。

なんかハァハァ言いながら。

ハァハァ言ってるから、やっぱりストーカーなのかなって思ったんだけど、「ダンカ~ン…。ハァハァ…ダンカ~ン。」っていう感じだから、やっぱり分かんなくなって。

たまに「ハァハァ…。ハァハァ…ダンカ~ン…。ハァハァ…。ハァ…ん?ダンカン?ハァハァ…ん?ダンカン?」って、言ってくるから「違います。」って言うけど全然分かってくれないし。

あとは細かいことで言えば、赤ちゃんが乗ってますシールが「ダンカンが乗ってます」シールに変えられてたりとか。

そんな感じで危害を加えるようなことはしてこなかったのに、最近はエスカレートしてきて、電話でついに攻撃的なところをみせてきたんだけど…。

「ダンカンを殺して俺も死ぬ。」って言ってきて。

…いや、じゃあ俺マジで関係ないんじゃん。

何の報告だよ。知らねぇよ。

バカかよ。

もう本当にいい加減にしてほしい。

何がしたいのか分かんないんだよ!

何がしたいのか分からなければ、ダンカンのこともそんなに知らないんだよ!

世代が違うんだよ!

結局アンタ何なんだよ!

そんな感じのこと言ったら「いや、付き合ってほしいな~って。」だってさ。

いや、マジのストーカーやったんかーい!!


なんだよこのオチ…。

2012年2月16日木曜日

犬から学んだこと。

突然失礼致します。

私、歳は53歳。家族は愛する妻と娘が3人おります。

その家族が最近、犬を飼いたいと言いだしました。

私はこれまで動物を飼ったことがなかったのですが、苦手だというわけでもないですし、反対する理由もないので、我が家でも犬を飼うことに。

妻と娘たちはその犬を大層可愛いがりました。

しかし、私はというと犬との接し方も分からず、犬のことに関してはほとんど干渉せずに日々を過ごしておりました。

そんなある日のこと。

その犬が私の足をクンクンと嗅いでいたのです。

しばらく私はそれを観察しておりました。

そのとき、私はあることに気が付いたのです。

我々人間は、何かのニオイを嗅ごうと心に決めたとき、鼻から息を吸うことに重点を置く。

しかし、ニオイを嗅ぐという行動に関してプロである犬の場合はその逆だったのです。

簡単にニオイを嗅ぐメカニズムを説明すると、まず、鼻から息を出す。そして、鼻から息を吸う。

そうすることで、ニオイを嗅ぐことができる。

だから、我々人間は意識的に息を吸うことに力を入れてしまう。

しかし、実際はその前段階である鼻から息を出すことの方が重要だったのです。

犬は小刻みに鼻から息を出すことに力を入れることによって、自然と鼻周辺の空気を吸い込んでいたのです。

それは、まるでスポイトが、中の空気を出した分だけ吸うようなそういう原理ではないかと私は結論付けたのでした。

私もこの方法で、色々なものを嗅いでみることにしました。

小刻みに鼻から息を出す。音で言うと「スンスンスンスンスン」というように、色んなものを嗅いでみました。

食卓に並んだ料理。

臭いと噂の私の体臭。

脱ぎたてのパンツ。

向いのホーム。路地裏の窓。

校舎の影。芝生の上。吸い込まれる空。

やはり、普段よりも格段にニオイを取り込めていると私は感じました。

普段が60%のニオイを嗅いでいるとすると、このときの私は90%のニオイを嗅いでいました。

それから、私はこの嗅ぎ方を誰かに教えてあげたい。この気持ちを共有したい。

そのような衝動に駆られ、家族にその話をしました。

家族はみんな口を揃えてこう言いました。

「あぁ…うん…。」と。

そのとき、私は、自分は何をしていたんだろうという徒労感を抱くとともに、明日からはきちんと、責任感を持った行動を心がけなければならないと思いました。

なにせ明日から私は大統領になるのだから。

大統領に、なるのだから。




2012年2月11日土曜日

きたなシュラン。

最近では珍しく、人が賑わう商店街。

そこを少し外れて、細い路地へと入って行く。

そこは、先ほどの商店街とは違い、暗く、ジメっとした湿気が漂っていた。

だが、このような場所に美味しいお店というものは、隠れているものだ。

あった。

汚い小さな定食屋。

今日はこの定食屋で、私の食欲を抑えるとしよう。

入ると、店の面構えと同じような雰囲気を持つ、親父が一人。

店には、昼食時だというのに、客は一人もいない。

親父も店に客が来たことを驚いているのか、面倒臭いと思っているのか、微妙な表情をして、何も言わずに私を見つめている。

「あっ…。いらっしゃい?」

まだ、自分の店に客が来たことを信じられないようだ。

私は何も言わずに、席に着いて、メニューを見る。

そして、一番大きな字で書かれており、自信があると思われる、カレーを頼んだ。

店内を見渡す。

外見は汚かったが、中はそうでもない。客が来ないからだろうか。

今日はハズレの店に来てしまったか。

そうこうしているうちに、カレーが私の前まで運ばれて来た。

うん。見た目は普通のカレーだ。

しかし、具が見当たらない。

少しスプーンで漁ってみると、元々は肉であったであろう小さな塊を見つけた。

なるほど、煮込んで煮込んで、具が溶けてしまっているのか。

これは、予想に反して、当たりの店かもしれないぞ。

そんなことを考えながら、スプーンでルーとご飯を一緒に口まで運ぶ。

そして、味わうように、ゆっくり咀嚼し、ゆっくりと飲み込む。

「…うまい。」

思わず、そう口から飛び出した。

今までに味わったことのないカレーの味が口の中に広がる。

私は最初の一口とは変わって、すぐに二口目を口の中に運ぶ。

そして、三口目、四口目と口の中に運び、五口目でようやく、今までに味わったことのない味の根源であろう隠し味とバッタリ出会った。

「君は…君はもしや、ヨーグルトかい?」

私がそうつぶやくと、ヨーグルトも私に語りかけてきた。

「久しぶり。こんなところでバッタリ出会うなんて。どうだい?僕の入ったカレーは美味しいかい?」

「うん。君がこんなにカレーを美味しくするなんて、思いもしなかったよ。」

「そう。よかった。ブルガリアから日本に来て、もう何年も経つけど、こんなことになって僕が一番驚いてるよ。」

「ははは。それもそうだ。では、また。」

そう言って、私はヨーグルトに別れを告げ、六口目を口の中に運んだ。

そこで、私は自分のお腹に違和感を感じた。

その違和感の正体を突き止めることは容易ではなかったが、七口目を口の中に運んだところで、その違和感の正体に気がついた。

そう。私はもうお腹いっぱいだった。

元々、私は少食なので、食パン一枚でも限界なのだ。

こうなると、あれだけうまかったカレーは、すでに私にとって、罰ゲームのようなものでしかない。

八口目、九口目と無理矢理、吐きそうになりながらも、食べていくうちに、私の中に沸々と憎しみのような感情が湧き出てきた。

誰だ?私をこんなに苦しめるのは。

どうして私がこんな思いをしてまで、食べたくもないモノを無理矢理食べなければならないんだ。

こんなものを食べていたら私は死んでしまう。

死ぬ?私が?

どうして?どうして私が死ななければならないんだ?

誰だ!?誰が私を殺そうとしているんだ!

助けてくれ!

私はまだ死にたくない!

私の目から、スーっと涙がこぼれ落ちた。

その涙は私の頬をつたい、カレーの中へと消えていった。

「死にたくないよぅ…。」

そう呟くと、私は生きてきた今までのことを思い返した。

そして、母親のこと、父親のこと、兄弟達のこと。

妻と子供、愛すべき私の家族のこと。

彼らの顔を思い浮かべながら、私はゆっくりと息を引き取ったのだった…。



ということで、評価は星2つ。

もう少し、食パン一枚でギリギリな人でも食べられるような量だったら、星3つだったんですけどね。

とても惜しかった。

でも、今までに味わったことのないカレーで、とても美味しかったです。

2012年2月4日土曜日

なんでも美味しく食べようとする奴(続・シェフの心)

やっぱり落ち込んでる。

思い返してみるとなんでも美味しく食べてもらおうとしてる自分がいて。

今はいい。

美味しく食べてもらおうとしてるうちはまだいい。

だけど、今度はそのうちなんでも美味しく食べようとするような人間になっちゃうんじゃないかって。

例えば、人の憎しみとか、悲しみとか、悩みとか。

人の夢を食べる妖怪みたいに。

そんなものまで美味しく食べようとするような人間になっちゃうんじゃないかってすごく不安。

いつも相談に乗ってあげてる幼馴染の女の子にね、急に呼び出されるわけですよ。

そしたら、ブランコに座って泣いてるその子が。

その子はいっつも男に泣かされてるわけですよ。

その度に俺が愚痴を聞いて慰めて、また別の男と付き合っては泣いて。

だからそこでブランコで泣いてるその子に言うんですよ。



「また泣いてんのかよ。いっつもそうじゃん。

いつも同じような男と付き合って、何回泣かされれば気が済むんだよ。

…お前を泣かすような男なら、もう別れちまえよ。

お前を苦しませるような、悲しませるような男なんか、忘れろよ。

…俺じゃダメか?

俺ならお前を泣かせたりしない。

俺ならお前を悩ませたりしない。

お前の憎しみとか、悲しみとか、悩みとか、そんなもの全部まとめて、俺がリッツにチーズとのせて食ってやる!リッツパーティー開いて食ってやる!

だから…だからもう泣くなよ。」



ほーら美味しく食べようとしたぁ!

ほらね?

やっぱり美味しく食べようとしたよ。

もうパーティー開いちゃってんじゃん。たぶん主催じゃん。

しかも、結局またフラれたりしてさ。

もうここまで来ると、開き直って自分から進んで美味しく食べようとするよ。

「あの~…突然すいません。その憎しみとか、悲しみとか、悩みとか、よかったら僕が食べましょうか?バンズに挟んで食べましょうか?」

とか言って。

もうそれ用にバンズ持ち歩いちゃってるよ。


そのうちみんなでバーベキューしようとか言い出して、

憎しみとか、悲しみとか、悩みとかを串に刺して食べ出すよ。

憎しみ、玉ねぎ、悲しみ、玉ねぎ、悩み、玉ねぎ

っていう風に自分で作っといて、玉ねぎだけ残すよ。嫌いだから。


そんな日々を送ってるうちに、ある女性に恋に落ちてさ。

でもその人は過去に恋人を事故で失ってて、また失ってしまうのが怖くて恋愛できないでいて。

その人に俺はこう言うんです。


「あなたに悲しい顔は似合わない。

あなたの憎しみとか、悲しみとか、悩みとか、

そんなもの全部まとめて、僕がキュウリと一緒に、糠に漬けて食ってやる!

だから…だからもうそんな悲しい顔しないでください。」


って言って告白したら、結局またまたフラれて。

だから最後に俺は言うんです。

「美味しく食べようとしてるとか言う以前に、やっぱり俺フラれすぎだろ!!」

2012年1月30日月曜日

シェフの心。

俺はなんて卑しい奴なんだろう。  

もうそんなことを思って最近落ち込んでる。 
 
この前、街でサラリーマンの人と肩ぶつかちゃって。 
 
自分が携帯いじりながら歩いてたのもあるんだろうけど、 それで凄い剣幕でガーって色々言われたもんだから、 
 
「もういいですよ!もう煮るなり焼くなり好きにしてくださいよ!」って言っちゃって。 
 
なんて卑しい奴なんだ俺は。 

「煮るなり焼くなり好きにしろ」ってなに自分を少し美味しく食べてもらおうとしてんだよ。 
 
まぁそのあとサラリーマンの人も「てめえ焼き殺すぞ!」って言って俺を美味しく食べる気満々だったけどさ。 
 
でもそのときハッと気付いて、そのときだけじゃなくて、もしかすると、今までも俺は自分を美味しく食べてもらおうとしてた卑しい奴だったんじゃないかって。 

あのときも、またあのときも美味しく食べてもらおうとしてたんじゃないのかって。 
 
中学生のころかな。好きな子に告白してフラれたんです。そのときにね。周りにそのことをからかわれたときに僕言ったんです。 
 
「もう十分傷ついてるんだから、傷口に塩を塗るようなことやめろよな。」って。 
 
いやいやいや。なに塩で味整えて、傷口を美味しく食べてもらおうとしてんだよって。 
 
こんなときに味整えて、お前全然傷ついてないじゃんって。 
 
あと、これは高校生のときかな。このときも告白してフラれたんです。でもこのときは絶対あの子お前のこと好きだからって言われて告白したんです。だから僕こう言ったんです。 
 
「おい話が違うじゃん。よくも俺の顔に泥を塗って、その上にバターをのせてレンジでチンするようなまねしてくれたな。」って。 

いやもう美味しく食べてもらう気満々じゃんって。

泥の味をバターでまろやかにしようとしてんじゃんって。 
 
泥が嫌いなお子様にも大丈夫みたいな主婦のアイデア発揮しちゃってんじゃんって。 

ほんとに俺は昔からずっと卑しいヤツだったんだなって。 

今度は大学生のころですかね。高校生のときに告白した子にもう一回告白したら案の定フラれたんです。

そのときに僕こう言ったんです。 
 
「同じ子にまたフラれちゃったよ。こんなの恥の上に恥を塗った挙句、さらにその上にチーズをのせて、アルミホイルを敷いた上でオーブンでチーズがカリカリになるまで焼いちゃったら、もうこんなの「恥の上塗りカリカリチーズのせ780円」の出来上がりだよ…。 」って。 
 
いやもう確信犯じゃん。 
 
780円って結構な値段で売り出そうとしてんじゃん。ランチじゃん。 
 
もう美味しく食べてもらおうっていう気持ちがシェフの域まで達してんじゃんって。 

思い返してみると、やっぱりなんでも美味しく食べてもらおうとしてた自分がいて。

それでこう思ったね。

美味しく食べてもらおうとしてるとか言う以前に俺フラれすぎだろ!!

2012年1月20日金曜日

頭が良い人の文章。

突然だが僕は頭が良い。

どのくらい頭が良いか普通の人々にも分かるように説明してあげるとすると、東京ドーム100個分くらい頭が良いと言えば分かってもらえるだろうか。

でも僕はそれを自慢したり、その頭の良さを利用して人を陥れたりなどはしない。なぜなら僕の頭の良さと、一般的に頭が良いとされている人の頭の良さとでは、大きな隔たりがあるからだ。

「能ある鷹は爪を隠す」と言うが、つまりそういうことだ。僕はこの圧倒的な頭の良さを、その頭の良さによって完全に隠蔽することに成功している。それほど頭が良い。

例えば、一般的に世間で頭が良いとされている人々は、良い学校に行っている人々のことを言うのであろう。頭の良い僕からしてみれば、それはとても安易な考え方で、頭の良い人が頭が良いことをアピールするなど、とても愚かで浅はかで軽はずみな行為であると言えよう。

だから頭の良い僕は大学には行っていない。高校にも行っていない。頭の良くない普通の人々にもここまで言えば理解できるだろう。そう。僕は中卒だ。そして、働いたこともない。

すべては頭が良すぎるがゆえである。おそらくこのような頭の良すぎるがゆえの僕のこのような考えは一般的に頭の良い人には、ましてや普通の人には理解しかねることであろう。

普通の人は覚えていないかもしれないが、先ほど僕は「能ある鷹は爪を隠す」という言葉を使わせてもらった。しかし、頭の良すぎる僕は「爪」だけでなく「翼」をも隠さなければ、この世の中を生きて行くことができないのだ。

「能のありすぎる鷹は翼をも隠す」のである。

僕の爪からペペロンチーノは作らせない。僕の羽根から羽毛布団は作らせない。

そのような腹積もりである。

では、頭が良すぎるがゆえに仕事をしていない僕が普段何をしているのか。

散歩である。風景を楽しむでもなく、人との交流を楽しむでもなく、ひたすらに、がむしゃらに歩き続ける。

その姿はまさに、翼を隠して飛べない鷹が地面を歩き回るが如くと近所でも噂されているに違いない。僕ほど頭が良いと近所で噂されていることさえ手に取るように分かってしまうのだ。

当然、近所の人々も僕の頭の良さには気付いていない。僕のこの圧倒的な頭の良さによって完全に隠蔽された頭の良さに、気付く人間がいるはずもないのだが。

しかし、さすがにそろそろ僕の頭の良さに気付く人が現れてもおかしくない頃だ。なんせ毎日のように鷹が地面を歩き回ってるわけだから。

なのでそろそろ僕は爪、翼だけでなく、この姿をも隠そうと考えている。

大きめのバックの中に自分の姿を隠そうと考えている。

そう。

あの、エスパー伊東のように。

そして、僕はめちゃイケに出ようという腹積もりなのである。




能のありすぎる鷹は翼をも隠す

[読み]のうのありすぎるたかはつばさをもかくす
[意味]頭が良すぎて逆にバカの意。転じて、自分の持っている才能は最大限に利用すべきであるという意味でも使われる。

2012年1月9日月曜日

虎穴に入らずんば、虎子を得ず。

最近、もっと人と交流を持った方がいいなって。

なんというか、ちょっと殻に閉じこもり過ぎてるんじゃないかなって。

だから人見知りだけど、ちょっと冒険して、そういう場にでも、どんどん参加して行こうって。

やっぱりよく言うからね。昔の人はうまいこと言ったなって。

『「虎穴に入らずんば、ずんばずんば。ずんばずんばに入らずんば、ずんば、ずんばずんばならず。これ、ずんばをずんばとするに等しずんば。」

ずんばはそう言うと、悲しい顔をせずんば。

その顔ずんば、あのときのずんばずんば兄弟のようで、私ずんば、とても不安な気持ちにならずんば、そのずんばのときを思い出さずんば。

ずんばずんば兄弟ずんば、近所でも、指折りのずんばっ子で、私もよく2人にずんばを隠されずんばり、ずんばに突き落とされずんばり、とてもずんばな思いをしずんば、覚えずんばずんば。

その日も、ずんばずんば兄弟ずんば、ずんばずんば、ずんばずんばずんば。

その日はずんばが被害者として、ずんばずんば兄弟に、ずんばずんばされ、洞窟にずんばずんば。

ずんばずんば兄弟ずんば、ずんばとずんばずんばを、ずんば、ずんばずんばずんば。

そうして、ずんばずんば兄弟は、悲しい顔をしずんば、虎子を得ず。』

ってね!

ほんと、昔の人はうまいこと言うなって。

この言葉通りもっと冒険していこうと思う。

自分に甘えないで、もっと頑張っていこうと思う。自分の為にならないから。

まさに

「NASAは人の為ならず。」

ってね!


2012年1月1日日曜日

おばあちゃんっ子をアピールして好感度アップ大作戦!2

やっぱりおかしいよ今の世の中。

人が人のことを思いやれない世の中っていうか、なんというか。

前にも書いたけど、もっと考えて欲しい。他の人のこと。

っていうかおばあちゃんのこと。

僕おばあちゃんっ子なんで、本当にもっと世の中が、みんながおばあちゃんのことをもっと考えて欲しいなーって。

おばあちゃんのことを少しも考えてない行動というかね。

僕おばあちゃんっ子なんでそういうのホント許せないんですよ。

僕なんて四六時中なにをしてるときでもおばあちゃんのこと考えてる。

例えばお皿洗ってるときでも、
「あっ。俺はお皿を洗ってるけど、お皿を洗うのと同じように、誰かに洗われてるおばあちゃんもどこかにいるのだろうか。」とか。

飛行機が飛んでるのを見たときに、
「あぁ。あの飛行機の中に一体何人のおばあちゃんが積み込まれてるんだろう。」とか。

「おばあちゃんがおばあちゃんで在り続けるために、一体何人のおじいちゃんが犠牲となればいいんだろう。」とか。

「おばあちゃんAが時速20kmで出発した30分後に、おばあちゃんBが時速50kmで出発したときに、一体何分でおばあちゃんBは、おばあちゃんAに追いつくんだろう。そしてそのときおばあちゃんCからおばあちゃんFは一体何をしてるんだろう。」とか。

「ていうかどうしておばあちゃんBはおばあちゃんAを追いかけたんだろう。」とか。

「ていうか時速20kmとか50kmっておばあちゃんなんで原付乗ってんだよ。おばあちゃんBに至ってはスピード違反してんじゃねえかよ。」とか。

そういう風に、もっとおばあちゃんのこと考えて欲しいなーって。

そういう風におばあちゃんのことをもっと思うようになったら、次は

もしもおばあちゃんが危険な目に合ってたらどうしよう。そのとき自分は何をおばあちゃんにしてあげられるんだろう。

そういうことをね。もっと想像して欲しい。

もし、原付に乗って20kmくらいで走ってたおばあちゃんに突然「 人に追われてる。助けてくれ。」って言われたらどうしよう。だとか。

もし、そこにおばあちゃんが乗った原付が50kmくらいのスピードで突然そのおばあちゃん突っ込んできたらどうしようとか。

もし、そのあと、その50kmくらいで走ってた原付のおばあちゃんが、ちゃんと二段階右折で、交差点を右折して行ったらどうしようとか。

もし、50kmくらいのスピードで原付に轢かれたおばあちゃんが、 おばあちゃんに見えるおじいちゃんだったらどうしようとか。

もっと考えよう。

そんで、そのときに思わないといけない。

「一体、おばあちゃんがおばあちゃんで在るために、どれだけのおじいちゃんが犠牲になればいいんだろう。」って。

もっと考えよう。

もうおばあちゃんのことを考えるとキリがないけど、それぞれ個人個人でもっとおばあちゃんのこと考えてやってよ。

もうそれだけ…。

それだけが俺の願いなんだよ…。