最近では珍しく、人が賑わう商店街。
そこを少し外れて、細い路地へと入って行く。
そこは、先ほどの商店街とは違い、暗く、ジメっとした湿気が漂っていた。
だが、このような場所に美味しいお店というものは、隠れているものだ。
あった。
汚い小さな定食屋。
今日はこの定食屋で、私の食欲を抑えるとしよう。
入ると、店の面構えと同じような雰囲気を持つ、親父が一人。
店には、昼食時だというのに、客は一人もいない。
親父も店に客が来たことを驚いているのか、面倒臭いと思っているのか、微妙な表情をして、何も言わずに私を見つめている。
「あっ…。いらっしゃい?」
まだ、自分の店に客が来たことを信じられないようだ。
私は何も言わずに、席に着いて、メニューを見る。
そして、一番大きな字で書かれており、自信があると思われる、カレーを頼んだ。
店内を見渡す。
外見は汚かったが、中はそうでもない。客が来ないからだろうか。
今日はハズレの店に来てしまったか。
そうこうしているうちに、カレーが私の前まで運ばれて来た。
うん。見た目は普通のカレーだ。
しかし、具が見当たらない。
少しスプーンで漁ってみると、元々は肉であったであろう小さな塊を見つけた。
なるほど、煮込んで煮込んで、具が溶けてしまっているのか。
これは、予想に反して、当たりの店かもしれないぞ。
そんなことを考えながら、スプーンでルーとご飯を一緒に口まで運ぶ。
そして、味わうように、ゆっくり咀嚼し、ゆっくりと飲み込む。
「…うまい。」
思わず、そう口から飛び出した。
今までに味わったことのないカレーの味が口の中に広がる。
私は最初の一口とは変わって、すぐに二口目を口の中に運ぶ。
そして、三口目、四口目と口の中に運び、五口目でようやく、今までに味わったことのない味の根源であろう隠し味とバッタリ出会った。
「君は…君はもしや、ヨーグルトかい?」
私がそうつぶやくと、ヨーグルトも私に語りかけてきた。
「久しぶり。こんなところでバッタリ出会うなんて。どうだい?僕の入ったカレーは美味しいかい?」
「うん。君がこんなにカレーを美味しくするなんて、思いもしなかったよ。」
「そう。よかった。ブルガリアから日本に来て、もう何年も経つけど、こんなことになって僕が一番驚いてるよ。」
「ははは。それもそうだ。では、また。」
そう言って、私はヨーグルトに別れを告げ、六口目を口の中に運んだ。
そこで、私は自分のお腹に違和感を感じた。
その違和感の正体を突き止めることは容易ではなかったが、七口目を口の中に運んだところで、その違和感の正体に気がついた。
そう。私はもうお腹いっぱいだった。
元々、私は少食なので、食パン一枚でも限界なのだ。
こうなると、あれだけうまかったカレーは、すでに私にとって、罰ゲームのようなものでしかない。
八口目、九口目と無理矢理、吐きそうになりながらも、食べていくうちに、私の中に沸々と憎しみのような感情が湧き出てきた。
誰だ?私をこんなに苦しめるのは。
どうして私がこんな思いをしてまで、食べたくもないモノを無理矢理食べなければならないんだ。
こんなものを食べていたら私は死んでしまう。
死ぬ?私が?
どうして?どうして私が死ななければならないんだ?
誰だ!?誰が私を殺そうとしているんだ!
助けてくれ!
私はまだ死にたくない!
私の目から、スーっと涙がこぼれ落ちた。
その涙は私の頬をつたい、カレーの中へと消えていった。
「死にたくないよぅ…。」
そう呟くと、私は生きてきた今までのことを思い返した。
そして、母親のこと、父親のこと、兄弟達のこと。
妻と子供、愛すべき私の家族のこと。
彼らの顔を思い浮かべながら、私はゆっくりと息を引き取ったのだった…。
ということで、評価は星2つ。
もう少し、食パン一枚でギリギリな人でも食べられるような量だったら、星3つだったんですけどね。
とても惜しかった。
でも、今までに味わったことのないカレーで、とても美味しかったです。
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